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採用・研修・育成に情熱を注ぐ

vol.18 タマノイ酢 播野勤氏に訊く。[中編]

  • guest播野 勤はりの つとむ
    タマノイ酢株式会社代表取締役社長
    1953年生まれ、大阪府出身。成蹊大学卒業後、ソントン食品に入社し財務、電算、社長室などの管理部門を担当。1979年タマノイ酢株式会社に入社。管理部長、常務、専務を経て1991年より現職。1980年より1年間、現日本生産性本部(当時は社会経済生産性本部)に出向し、日本生産性本部認定経営コンサルタントの資格も取得。播野社長就任当時、同社は多額の負債を抱えていたが、利益至上主義ではなく人間中心の経営に舵を切る改革を断行。ノルマの廃止、短期間での部署異動、社員の中から医師や調理師といった専門家を育てるフューチャー制度など、社員の個性と力を伸ばすさまざまな制度を設け、若手を育成している。若手チームが開発したお酢ドリンクの先駆け「はちみつ黒酢ダイエット」を始め、ユニークな新商品を次々に生み出している。お酢業界ではミツカン、キユーピー醸造に次ぐ、業界3位の地位。

    ▼タマノイ酢株式会社のホームページはこちら▼
    http://www.tamanoi.co.jp/
  • interviewer 森 啓一もり けいいち
    株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
    監査法人、税理士事務所などを経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

広い視野を持った社員を育てる

前回、社長就任時に対立部署の課長同士を入れ替えたという、興味深い話を伺いました。その時の手応えが、現在も続く「ジョブ・ローテーション(様々な部署を経験させる人事異動)」の制度につながっているのでしょうか?

播野

そうですね。人はポジションから物事を見ていることが多いと思うので、異動して違う立ち位置に就けば相手に対する気遣いが生まれるし、自分に対する気づきもあります。
タイミングや異動先は、現場から入ってくるいろいろな情報を元に決定。入社数年の間は1~2年で異動させることが多く、異動先も事務職から研究開発、製造、営業、購買など様々です。

なるほど。大学での専攻や得意分野などにかかわらず、色々な仕事を経験させていらっしゃるのですね。
しかし、専門性を高めていきたいと考える社員には、物足りないと感じるのではないでしょうか。

播野

そう感じる社員もいるかもしれませんが、先のことを見据えて考えるとむしろ逆だと思います。
法律など本当に専門的なものはアウトソースするか外部の専門家にアドバイスしてもらえばいい。それ以外の、社員ができる仕事については、専門性を極めるより、色々な部署の仕事を経験したほうが、物事の全体が見えるようになる。
たとえば野球でサードばかりやっていると、「どういうサードであるべきか」が分からなくなってくる。でも、ファーストや外野など、色々なポジションを経験すると、野球全体におけるサードの位置づけが分かるようになると思うのです。

2030年には今の職業の半分がなくなるとも言われる中、専門性だけに依存すると危険だということですね。

播野

そうなんですよ。たとえば最難関と言われる国家資格の1つに弁護士がありますね。そんな弁護士の年収の中央値は右肩下がりで、600万円台にまで落ち込んでいるというデータがあります。つまり弁護士の資格を持ちながら、年収600万円以下の人もたくさんいるということです。
専門性に守ってもらおうとするとそういうことが起きる一方で、逆に何億と稼ぐ弁護士もいるでしょう。そういう人は、海外にも活躍の場を広げていたり、会計コンサルタントと協業していたりするなど、どうすれば顧客が喜んでくれるかを考えています。原点は相手の立場に立ち、相手の喜ぶことをすることなんですね。

では、あえて専門家をつくらないのも人事戦略の1つということなのですね。

播野

私が大学を卒業するころは、和文タイプとそろばんができれば、たいてい就職することができました。しかし、今はそんな資格すら知らない人もいるでしょう。
社員を作業的な専門性の中に閉じこめてしまうより、人に役割を与えてシステムが作動するような設計をする、そういうことを覚えてもらうほうがはるかに大事なんです。全体を見てマネジメントする能力は、異動することによって培われると思いますよ。

ただ、仕事の知識は3〜5年ほどで、ようやく身についてくるように思います。
1〜2年という短期間での異動というのは、知識を身につけるより様々な経験を積んで、ゼネラリストとしての力を磨くほうを優先されているからなのでしょうか?

播野

そこに長くいれば知識がつくと思われがちですが、果たしてそうでしょうか。
アメリカに15年住めば英語を覚えるでしょうが、日本を出たことがなくても英語がペラペラの人はいますよね。人は時間がなくても、興味があれば覚えるもの。何に興味を持っているかが重要で、どれだけそこにいたかは実はあまり重要ではありません。そして、モチベーションを維持するために必要なのは、“生きがい”や“やりがい”です。
海綿のように知識を吸収する状態をつくってあげることで、数年あれば、ほとんどの社員はそれなりのものを身につけてくれます。

そのためには、それだけの資質を備えた人材を採用する必要がありそうです。

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教育の原点は採用

採用のポイントや決め手があれば教えていただけますか?

播野

わが社の採用は新卒のみで、「総合職一般職」「キャリア制社員」の2種類。
キャリアは初めから雇用期間を5年間と設定しているシステムで、それぞれ10~15名ほど採用します。学歴やテストの結果より、その人がどう育ってきたか、愛されてきたかといった部分――つまり、人間的な品のよさを備えている人を採用するように心がけています。また、人間が好きかどうかも大事なポイントですね。

では、まずは人事担当者が面接などでそうした学生を選び、そこから2次試験、役員面接と進めていかれるのですね。
播野社長はどの段階から見られているのですか?

播野

私は最初から関わっています。
わが社は伝統的に社員教育に熱心で、教育の原点は採用だと考えているためです。だから採用にはしっかり時間と労力をかけているんですよ。
たとえば大きな会場で行われる“就職フォーラム”。社長が来ていない会社が多いですが、私は必ず足を運び、ブースに来てくれた全員と会って直接、私の考え方を伝えています。多い時は年間8000人ほどになるでしょうか。

社長自らそれほど多くの人とお会いになるのですね。相当な時間と手間をかけていらっしゃることが伝わってきました。その後はどのように人選していかれるのでしょうか?

播野

エントリーシートの言葉、テストの点数だけでは計れない、「この人だ」という感覚を大事にしています。そう言った観点で見ているので、10秒ほど話せば100人から10人を選ぶことが可能です。
人事担当者も見る目が育っているので、私と彼らが選ぶ人はほぼ同じです。ただ、そこから誰を選ぶかで意見が分かれるので、そこからはまた時間をかけて面接などを行っています。

御社では、採用後の社員教育にも力を入れていらっしゃると伺いました。
特に新入社員研修では、オリジナルのメニューを組まれているそうですね?

播野

入社前に3泊4日の合宿研修を行い、ビジネスマナー、商品知識、人事や組織体系、決算書の見方など、すべて教える厳しい内容です。
毎日テストを行い、それに合格しないと次に進めません。テスト以外にもマラソンや筋トレなど体も鍛えるし、大きな声で「仕事の基本行動8箇条」を暗唱する「審査」などの課題もこなします。こうした課題の多くはグループ単位で行い、1人でも不合格者がいると合格するまで次に進めません。
叱咤されることもある厳しい合宿ですが、新入社員はここで仲間と助け合うこと、支え合うこと、とことんやることなどを身をもって学びます。

私も人間は最終的には知的なこと、意的なことでは動かなくて、最後は情で動くと思っています。ですからその研修はとても有効だと思いますし、個人的にそうしたやり方は賛成です。
ただ、怒られることに免疫のない今の子では、耐えられないケースもあるのではないでしょうか?

播野

合宿研修はすべて社員が行うので、厳しく指導する一方で、落ち込んだり悩んだり挫折しそうな新入社員に寄り添い、励まして伴走します。
わが社は社員同士が常に「大丈夫?」と声をかけ合い、必要に応じてフォローする風土がありますが、その原点がこの研修にあります。
また、新入社員たちはこの研修で、あらためて自分が親から愛されてきたと知り、素直に自分の気持ちを表すことができるようになるようです。
「研修後は子どもが素直になった」と親御さんから驚かれることもあります(笑)。

ひと昔前までは学生時代の部活などで先輩から厳しくされ、さらに時代をさかのぼれば、元服できちんと変わらなければいけなかった。しかし、今は30歳、40歳でも変わるチャンスを逃してしまった人がいるように感じます。
社会に出るタイミングできちんとリセットして、完全にゼロの状態で社会人生活をスタートするのは素晴らしいですね。

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次回も播野さんにビジネスのヒントをお伺いします!

vol.18 後編へ続く

vol18
タマノイ酢 代表取締役社長 播野 勤

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社会派漫画家 弘兼憲史

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人とホスピタリティ研究所所長前ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー日本支社長 高野登

人とホスピタリティ研究所
所長
前ザ・リッツ・カールトン・
ホテル・カンパニー
日本支社長
高野 登