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未来企業探訪 Vol.7

先人の智慧がつまった伝統産業を
次世代につなぎたい
株式会社 和える【前編】

掲載日:2016/01/15

先人の智慧がつまった伝統産業を次世代につなぎたい株式会社 和える【前編】

凛とした色合いの藍染の産着、ていねいに漉いた和紙で作られたぬくもりのある『ボール』――。「aeru」の直営店を訪ねると、目に飛び込んでくるのは落ち着いた色合いの乳幼児向けの品々。派手な色合いのものはほとんどないが、商品を手にすると心の中で何かが躍り出すのを感じる。伝統産業の職人が匠の技と想いをこめて作った乳幼児向けの逸品が「0から6歳の伝統ブランドaeru」だ。このブランドを立ち上げた矢島里佳さんに、伝統産業に目を向けたきっかけや起業に至る経緯などを伺った。

  • 会社概要
  • 株式会社 和える 2011年に、当時大学生だった矢島里佳さんがビジネスプランコンテスト「学生起業家選手権」優秀賞の賞金150万円を元手に設立した。日本の伝統産業の技術を用いた0〜6歳向け商品の企画・開発・販売を手がけている。愛媛県・砥部焼など複数の産地で作られている「こぼしにくい器シリーズ」や、徳島県・本藍染の産着などが人気。東京直営店の「aeru meguro」やオンラインショップ、百貨店でも購入できるほか、2015年11月に京都直営店「aeru gojo」もオープンした。また、日本の伝統に関するイベントの企画・実施、ブランドの再構築や空間プロデュース事業なども行っている。矢島さんの著書に『和える-aeru-伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』がある。

中高時代の茶・華道部で伝統産業品に魅せられる

 JR目黒駅からほど近い場所に「aeru meguro」(aeru東京直営店)は居を構える。ガラス張りのおしゃれなショップに置いてあるものは日本の伝統産業の技術を活かし使った器や玩具、タオル、ベッドメリーなど。パッと見は乳幼児のグッズを扱う店とは思えないが、扉をくぐると温かい空気に包まれ、商品を手に取ると懐かしい手触りにホッとして優しい気持ちになれる。

 大学3年生のとき学生起業家選手権で優勝し、4年時に「和える」を起業、大学院に通いながら経営を始めたのが矢島里佳さん。子ども時代から日本の伝統に囲まれ、和の習い事を経験して現在に至るのかと思いきや、意外にも「習い事はバレエやピアノなど西洋の習い事が多かったですし、自宅でも日本の伝統に触れるような機会はほとんどありませんでした。中高時代に茶・華道部で活動し、お茶室で伝統産業品に囲まれていると不思議と心が落ち着くのを感じました。日本にいながら日本文化に触れていないなんてもったいないと思い、伝統産業に興味を抱きました」。

 元々ジャーナリスト志望で、「何かを伝えたい」という思いを温めていた矢島さんは、大学時代にメディア関連の勉強をする中で「日本の伝統について発信したい」と目標を定めた。そこからは、常識の枠をいとも簡単に飛び越えて駆け抜けていく。「全国各地の職人さんを訪ねるお金はないのでどうしようかと考えました。そこで、“若手職人を紹介する連載記事を取材・執筆する”、つまり職人の話を聞くことを仕事にしようと考えたのです」。企画書を作って「こういうことをやりたい」と公言し、事あるごとにそれを話して回ることで、旅行社の会報誌の仕事に恵まれました。

直営店では、月ごとに職人の技についての展示やイベントを行っている

直営店では、月ごとに職人の技についての展示やイベントを行っている

子ども時代に「伝える」ことの楽しさと大切さを実感

 矢島さんが「伝える」ことに目覚めたのは、小学5年の運動会で放送を担当したのがきっかけだ。競技を見ながら実況中継さながらのアナウンスをしたところ、運動場の裏手で仕事をしていた先生から「見られなかったけど、競技の様子が分かって面白かった!」と褒めてもらったという。「その場にいない人でも、伝えることで一緒に楽しんでもらえる。伝えるって楽しい! と感じました」。

 また、矢島家の教育方針も矢島さんの価値観に大きな影響を与えている。「小さい時から、お小遣い制ではなかったので、本当に欲しいものを吟味して、お誕生日やクリスマスに買ってもらいました。それ以外のときは、お年玉を貯めて使ったり、懸賞に応募して欲しいものを手に入れたりしました。自分で手に入れられる方法を常に考えていましたね。

 また、何かに挑戦するときも、自分との対話の末に「なぜ、やりたいか」をきちんと説明すれば、何でも応援してくれました。また、人と比べられることもありませんでした。そのため、比較の相手は友達や妹ではなく、過去の自分。そんな教育方針が、思いをまっすぐ実現する矢島さんの生き方を形作ってきたのだろう。

やさしい笑顔でお話される矢島さん

やさしい笑顔でお話される矢島さん

3年間の職人取材を通して問題の本質を見据えることに

 「和's worth」というタイトルで会報誌に1ページの連載を持った矢島さんは、石川・金沢の箔メーカー、愛媛の砥部焼や五十崎和紙など全国の伝統産業を取材して回った。3年間、ライターとして若手職人の話を聞いた矢島さんは、そこで新たな課題に気づくことになる。「ジャーナリスト志望だったこともあり、原因の本質を探すことが習慣となっていました。起きている事象は表層的で、本質は別のところにあるはずだと思ったんです」。

 伝統産業の職人の多くは「仕事がない。物が売れない。何を作っていいのか分からない」という悩みを抱えているが、問題の本質はそこではない。なぜ伝統産業品が売れないのか突き詰めて考えると、本質が見えてくる。今の日本人は自国の文化のことを知らず、伝統産業品に触れずに育っているから、大人になっても伝統産業品を自ら買い求めはしないし、買う買わないという以前に、そもそも知らないので、触れるきっかけがないのだ。

 当初は「伝統産業のことを伝えたい」という想いからスタートした矢島さんだが、ここで新たな岐路に立つことになる。メディアを通して伝えるだけでは、日本の伝統を次世代につなぐことができないのではないか――そこから、矢島さんは新たな方向へ一歩を踏み出すことになった。

生まれてきた赤ちゃんへの、初めての贈り物「出産祝いセット」

生まれてきた赤ちゃんへの、初めての贈り物「出産祝いセット」

後編では株式会社和えるの立ち上げから商品に対するこだわり、
そして今後の展開についてお聞きします。

vol.7後編へ続く

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