フォーカスノート
IoTは農業にも活用可能!スマート農業・導入すべき理由・実現した事例を解説
目次
「IoTが農業にも役立つって本当?」
「IoTはどうやって導入すればいいのかな」
農業を営んでいる方の中には、このような疑問を抱くことがあるかもしれません。IoTは農業にも活用可能です。事実、業務効率の向上や自動化を実現しています。人手不足に悩まされている場合、IoTが解決策になるかもしれません。そうなりますと、導入方法や事例が気になるところですよね。
そこで本記事では、IoTを使った農業(通称スマート農業)・農業でIoTを活用すべき理由・活用手順・成功のコツ・導入事例まで詳しく解説いたします。「IoTを農業で活用するにはどうすれば良いかを知りたい」と考えている方は、ぜひご参考ください。
IoTを農業に使ったスマート農業とは?
ここではIoTや農業に関する基本情報を解説いたします。
- 農業にもIoTを!スマート農業とは?
- 日本農業の課題は?
- そもそもIoTとは?
農業にもIoTを!スマート農業とは?
農林水産省における定義では、スマート農業とは以下になります。
スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業のことです。
引用:農林水産省|スマート農業とは、どのような内容のものですか。活用によって期待される効果を教えてください。(2024年1月12日)
IoTやAIなどによって業務を効率化し、スマートな働き方を実現できるということで、『スマート農業』と名付けられているのかもしれません。不作や廃棄などのリスクを下げられるとして、昨今注目を集めています。
なおICTとは、デジタル化された情報通信技術そのものを指す単語です。ICTの大きなカテゴリの中に、IoTの概念が含まれていると考えれば良いでしょう。IoTについては後述します。
日本農業の課題は?
日本農業には、大きく分けると以下2つの課題があるとされます。
- 高齢化による従事者の減少
- 増加する耕作放棄地
1つ目の課題は、日本の農業を担う方は基本的にシニア世代であり、農業従事者の減少が深刻化しているとされる点です。以下、実際に減少している数値になります。
個人経営体の世帯員である基幹的農業従事者は減少傾向が続いており、令和2(2020)年は136万3千人と、平成27(2015)年の175万7千人と比べて22%減少しました。15年前の平成17(2005)年の224万1千人と比べると39%減少しました。
引用:農林水産省|(1)基幹的農業従事者(2024年1月12日)
15年の間に40%弱も減少していることがわかります。数年後には、現在よりも深刻な人手不足に陥るかもしれません。
2つ目の課題は耕作放棄・荒廃農地が増えていることです。
我が国の農地面積は、昭和36年~令和5年の半世紀の間に、約114万haが農用地開発や干拓等で 拡張された一方、工場用地や道路、宅地等への転用や農地の荒廃等により約293万haがかい廃され たため、608万6千haから429万7千haへと減少。
引用元:農林水産省|荒廃農地の現状と対策|3ページ目(2024年1月21日)
農林水産省の同資料によりますと、耕作放棄・荒廃農地が増えてしまう所有者側の大きな要因として、『高齢化、病気』『労働力不足』が挙げられていますそしてIoTは、これらの解決策になる可能性を秘めています。
詳細は後述しますが、IoTは業務の効率化・自動化が実現可能であるため、人手不足の解消を期待できます。各業務を本格的に自動化すれば、従来に比べて「病気で動けないので、畑を耕せない」などに悩まされることも減るでしょう。このようにIoTであれば農業の課題を解決できる可能性があります。
そもそもIoTとは?
IoTは日本語で『モノのインターネット』と呼ばれ、文字通りあらゆる『モノ』とインターネットをつなぐ技術のことです。一般利用されているものでは、以下のような例が挙げられます。
- スマートロック
- スマートエアコン
- スマート照明
- ロボット掃除機との連携
- ウェアラブルデバイス
例えばスマートロックであれば、物理的な鍵を用いることなくドアの解錠・施錠ができます。ドアに近づくだけで解錠されるので、両手に荷物を持っている場合などに便利でしょう。またドアの解錠・施錠の履歴を確認したり、遠隔で操作したりすることも可能です。
そしてIoTは農業以外のビジネスの場でも使われています。主な使われ方は以下の通りです。
- 電子タグを使った在庫管理
- カメラによるモニタリング
- ドローンによる空撮
- 建設・工場の現場における自動制御
- 配送ルートの効率化
商品に電子タグを取り付けることで、製造・流通・購入までの各段階を簡単に追跡できます。例えば、棚卸しでは仕入れ数と売上数を比較し、それを実際の在庫数と照らし合わせる必要があります。しかし、それを実行するには多くの手間がかかりました。電子タグを使用すれば、リアルタイムで在庫数を確認でき、時間を大幅に節約できます。
このようにIoT技術は農業だけでなく、多岐にわたる分野で応用されています。農業にも積極的に取り入れるべきでしょう。
なおIoTの詳細は以下の記事をご参考ください。
IoTとはモノのインターネットのこと!仕組み・実現できること・導入事例を解説
スマートに管理!農業にIoTを活用すべき理由
農業にIoTを活用すべき理由として、以下4つが挙げられます。
- ハウス内の状態を見える化できる
- 遠隔操作で水田を制御できる
- ノウハウやデータを正確に蓄積できる
- 政府の支援を受けられる可能性がある
ハウス内の状態を見える化できる
農業にIoTを活用することで、ハウス内の状態を見える化できます。ハウス内にセンサーを設置することで、気温や湿度を始めとした、ハウス内の環境データを簡単に確認できます。
例えば、ある農家が高品質のトマトを栽培しており、ハウス内にさまざまなセンサーを設置したとします。これらのセンサーは、気温・湿度・土壌の湿度・照明の強さ・二酸化炭素濃度など、トマトの成長に影響を与える要因を測定できます。このような項目を細かく数値化できるのは、IoTならではです。
そして何より、これらのデータはリアルタイムで農家のスマホなどに送信されます。アプリケーションやソフトウェアを使用して、これらのデータを監視・分析可能です。データに基づいて、ハウス内の換気システム・加湿器・照明システムなどを遠隔操作で調整できます。自宅に居ながら、湿度が高すぎる場合には換気を強化し、気温が低い場合には暖房を調整できるでしょう。
遠隔操作で水田を制御できる
IoTの機器を複数組み合わせることで、遠隔操作による水田の制御も可能です。水位・水温を計測できるセンサーを設置することで、水田の水位などを遠隔地から確認できます。
そもそも水田の数が多くなれば、水位・水温の確認だけでも多くの時間を取られます。また場所によっては、遠方まで行かねばならないケースもあるでしょう。しかしIoTを活用することで、現地に行かなくても水位や水温の確認ができます。水田までの往復時間の削減や体力の温存ができるでしょう。
ノウハウやデータを正確に蓄積できる
IoTを活用することで、作物を育てるためのノウハウやデータを蓄積することもできます。センサーで正確かつ24時間情報収集できるからです。
IoTデバイスには、高感度で精密なセンサーが搭載されています。これらのセンサーは、気温・湿度・土壌の水分レベル・光の強度・二酸化炭素の濃度など、環境の微細な変化を正確に測定可能です。日々・季節・年単位での変化を、正確に追跡できます。
それに付け加えてIoTシステムは、24時間体制でデータを収集します。人の介入を最小限に抑えることで、人的ミスを減らし、データの収集と処理をリアルタイムで行えるでしょう。これにより、データの精度を期待できます。
長期にわたって収集されたデータは、貴重なノウハウとして蓄積されます。特定の気象条件や病害虫の発生パターンなどに応じた効果的な対策を講じられるでしょう。
政府の支援を受けられる可能性がある
スマート農業にチャレンジする際に、政府の支援を受けられる可能性もあります。例えば以下のように補助金を受け取れるかもしれません。(公募は終了しています)
AI、ICT、IoT等の最新技術を活用したスマート農業を推進するための機器、品質向上のための機器等の試験的な導入、またそれらに関係する取組みのために支出する経費の一部を補助することにより、強い農業の創造に向け、戦略的な農業を推進する。
引用元:宮崎県岡崎市役所|令和5年度農務課補助金等制度一覧(2024年1月21日)
もちろん上記補助金の他にも、さまざまな支援策があるかもしれません。政府主導ではなく自治体が独自に行っている支援策や補助金もあるため、お住まいの地域の市役所などで相談してみると良いでしょう。
目指せ自動化!導入したIoTの活用手順を解説
実際にIoTを導入した際の活用手順は以下のようになります。
- IoTセンサーでデータ収集
- 分析および設定
- 自動制御
IoTセンサーでデータ収集
まずはIoTのセンサーなどを活用し、田畑など農地におけるデータを収集します。収集するデータは以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 気温
- 湿度
- 風速
- 気圧
- 日照
- 水温
- 水圧
- 水位
ケースによって、集めるデータは変わります。水耕栽培を利用しない畑であれば、水を張らないため水位のデータは必要ありません、しかし水田であれば水位は重要なデータです。やみくもにデータを収集するのではなく、状況に応じてデータ収集を行いましょう。
なおデータは、基本的に専用のプラットフォームに送信されます。利用者は自身のスマホなどでプラットフォームにアクセスすれば、蓄積されたデータを簡単に確認できます。
分析および設定
次にデータの分析を行います。経験則や直感に頼った判断だけではなく数値や事実に基づいて分析することで、新たに見えてくることもあるでしょう。
分析の具体例としては、過去の気象データと作物の収穫データを組み合わせる方法があります。天候不順で湿度が〇%以上の年に収穫された作物は、病害虫の被害が多く収穫量が少なかったなどがわかるかもしれません。過去のデータをさかのぼり、同じ条件になる年の収穫量を確認すれば、より質の高い意思決定が可能です。
分析後は、各種設定を行いましょう。ハウス内の湿度が規定以上に高くなった場合は、エアコンを作動させるなどの方法が挙げられます。ただし、管理内容によっては、別のIoT機器の導入が必要かもしれません。ご注意ください。
自動制御
使い方にもよりますが、最終的には自動制御も叶えられるでしょう。分析結果に基づいた水やりなどが可能になります。
水やりのほかに肥料を足すタイミングなどもわかるため、日々の作業量を大幅に削減できます。水やりや追肥などは、作付けなどに比べて頻度が多い作業です。これらを自動化することで、新しい作物の栽培に挑戦する余裕をつくれるでしょう。
またハウス栽培だけではなく、農薬散布も行えます。農薬散布の代表的なものと言えば『ドローン』の活用が挙げられるでしょう。手動で行うケースもありますが、航行ルートを設定できるドローンであれば自動で農薬の散布が可能です。傾斜地など足場が不安定な水田でも、安全に農薬散歩を行えます。1つずつ自動化していくことで、将来的には人にしかできないことに集中できる状況をつくれるでしょう。
農業へのIoT導入を成功させるコツを解説
農業へIoT導入を成功させるには、次の2つのコツがあります。
- 導入目的の明確化
- 取得するデータを決める
導入目的の明確化
最初にIoTを導入する目的を明確にしましょう。本当に必要な技術やデバイスを選定できます。
例えば、収穫量を増やすことが目的であれば、土壌の水分や栄養素を測定するセンサーを選ぶことになります。しかし作業の効率化が目的であれば、自動化された機械やドローンの導入が適切かもしれません。このように成し遂げたいことが異なれば、選ぶべきデバイスも変わります。
またスマート農業に限らず、IoT機器の導入には一定の費用がかかります。費用対効果を高めるためにも、導入目的の明確化は重要だと考えられます。「最終的に、何を、どうしたいのか?」を突き詰めて考えてみましょう。
取得するデータを決める
事前に取得するデータを決めておくこともポイントです。目的を達成するためには、関連性の高い特定のデータを集中的に取得することが重要になります。
例えば収穫量を増やすことが目的であれば、土壌の状態や気象条件のデータが必要です。作物量を減らす一部の病害虫は、特定の気温や湿度の条件下で発生しやすくなるためです。気温と湿度センサーを用いてこれらの環境条件を監視し、病害虫のリスクを事前に予測し対処することができます。
そして何より、土壌の栄養状態を把握することで、必要な肥料の種類と量を正確に決められます。これにより作物の健康を促進し、収穫量を増加させることが可能です。その他にも土壌の水分センサーを用いて、土壌の水分レベルを監視および必要に応じて調整できます。収穫量を最適化できることでしょう。
このように関連性の高いデータを取得することで、より質の高い意思決定・施策を実行しやすくなります。取得するデータを事前に決めておくことは極めて重要です。
なお取得したいデータを決めるときは、その作物にとっての最適な環境を把握することが大切です。もちろん、その環境を構築するために必須の条件は作物ごとに異なります。例えば、米であれば豊富な日照が必要ですが、根菜だと日照は一定量あれば十分です。米を育てるのであれば日照のデータが重要になりますが、根菜だとそうとは限らないということです。
このように取得すべきデータは作物によって変わる傾向にあります。その作物固有の最適な環境、必要なデータを理解しましょう。そうすれば重点的に集めるべきデータが見えてきます。
IoTシステムを農業に導入した事例を解説
ここではIoTシステムを農業に導入した事例を2つ解説していきます。
- 農業におけるIoT導入事例その1
- 農業におけるIoT導入事例その2
農業におけるIoT導入事例その1
1つ目の農業におけるIoT導入事例は、以下のようになります。
【事業の成果】
①子牛の「体調変化の前兆」と「推測される運動傾向」の異常値を発見
子牛の体調が悪化する前兆を検知することが可能になれば、早期の治療を開始する事が出来、子牛出荷までの病気による損耗率を低下させることが期待されます。
②カスタマイズできる位置表示アプリケーションを開発
位置表示アプリケーションの開発により、子牛の行動を遠隔地からでも観測することが可能となりました。 また、同アプリケーションは様々な産業のニーズに沿って、図面をカスタマイズすることも可能です。
引用元:株式会社フォーカスシステムズ|滋賀県近未来技術等社会実装推進事業でIoT位置測位技術を活用 ~ もっとたくさんの“近江牛”、食卓に届け ~(2024年3月7日時点)
この事例(厳密には実証事業)は農業と言うよりも畜産業なのですが、畜産業も農業の一部門であるため、ご紹介いたします。
早期に子牛の体調不良の兆候を識別することで、迅速な治療が実施できるようになります。この対策によって、病気から生じる子牛の死亡率減少を期待できます。特に食肉用牛を含む畜産で100頭を飼育する場合には、出荷量の増加や経営の改善により、約90万円の利益向上が見込まれます。
さらに、子牛の位置を追跡するアプリケーションの導入によって、遠隔から子牛の動きを監視できるようになります。これにより、従来のように子牛を直接探す必要がなくなり、作業の効率化が期待されます。
農業におけるIoT導入事例その2
当社の事例で、IoTを用いて業務を効率化させた事例があります。
「通い農業⽀援システム」を導⼊すると・・・
①ハウスの温度管理
○⽔稲・タマネギ育苗
→ハウスの側窓の開け閉めを判断○アンスリウム
→暖房オンオフ、地震の設備への影響の判断②灌⽔の管理
○イチゴ育苗・カスミソウ栽培
→灌⽔量、灌⽔装置設定の判断
引用元:農林水産技術会議|原発事故からの復興のための放射性物質対策に関する実証研究|17ページ目(2024年3月7日時点)
ハウス内の気温と湿度を自動調整することにより、植物の健康を効率良く維持できます。さらに、植物の成長に必要な水分を適切に管理することで、健康な状態を保ちつつ、収穫量と品質の向上を同時に実現できる可能性があります。種類に合わせた灌水のタイミングと量を自動的に調整するシステムを使用することで、人為的なミスを減らし、栽培効率を向上させられるでしょう。
まとめ
農業分野におけるIoT技術の活用は、農業の知識を農業従事者へデータとして伝える役割が期待されます。経験や勘に頼っていた知識を、数字や言葉でわかりやすく学べるでしょう。
目に見えない経験や知識だけではなくデータで学べることから、高品質な作物の安定した収穫も可能になります。また収集・蓄積されたデータを分析・活用することで作業の効率化はもちろん、自動化も実現できるでしょう。
ただ、農業へIoTを導入するには、ITに関する知識が必要になります。そして必要なデータを取得するには、取得したいデータに合わせたセンサーの選定も重要です。農業分野でIoTの導入を検討する際は、お気軽に当社へご相談ください。