フォーカスノート
工場にIoTを導入!データの見える化などのメリット・システム活用事例を解説
目次
「IoTって、工場にも導入できるのかな?」
「そもそもIoTやスマート工場ってなんだろう」
このような疑問を抱く方もいるでしょう。まずIoT技術は工場にも導入できます。 生産性の向上・人件費削減・新たなビジネスの創出などが期待できます。スマート工場(IoTなどの最先端技術を取り入れた工場)は、AIやロボットを使って業務を進めるため、人材不足による影響も受けにくい傾向にあります。今やIoTは、工場の運営になくてはならない技術と言えるでしょう。
そこでこの記事では、スマート工場やIoTの概要・IoTを導入するメリット・導入手順・事例を解説いたします。この記事を読めば、IoTの必要性・重要性がわかるうえ、スムーズなIoT導入が可能です。「スマート工場のメリットを知りたい・IoTの導入手順がわからない」と悩んでいる方は、ぜひご参考ください。
工場にもIoTを導入できる!スマート工場を解説
工場にもIoTを導入することは可能です。ここではスマート工場とは何かを解説いたします。
- 工場もIoT化!スマート工場とは?
- そもそもIoTとは?
工場もIoT化!スマート工場とは?
スマート工場とは、AIやIoT技術を駆使して生産や設計、製造・保守などを行う先進的な工場のことを指します。スマート工場はスマートファクトリーとも呼ばれ、2011年にドイツ政府が提唱したインダストリー4.0(第4次産業革命)のコンセプトに則って作られました。
スマート工場での業務は、従来の工場に比べて人手を必要としない傾向にあります。IoTなどの技術を利用することで、業務の効率化・自動化が可能だからです。そのため以下のような効果が期待できます。
- 生産性・業務効率向上
- 人件費の削減
- 業務時間の短縮
- 人手不足の解消
- 新たなビジネスの創出
- 安全性の向上
IoT技術を導入しスマート工場化すれば、課題解決や新ビジネスの創出などもできるでしょう。スマート工場には、さまざまな可能性があります。
そもそもIoTとは?
IoTとは『Internet of Things』の略で、さまざまなモノをインターネットに接続する技術のことです。日本ではモノのインターネットと訳されます。
IoTは以下5つの構成要素で成り立っています。
要素 | 特徴 |
デバイス(モノ・センサー) | データを収集 |
ネットワーク | ネットワークを通じて送信 |
ゲートウェイ | モノとネットワークをつなぐ出入り口 |
サーバー・クラウド | データを蓄積・分析・処理 |
アプリケーション | システムを制御 |
上記5つの要素から構成されたIoTにより、さまざまなモノがインターネットに接続可能です。現在はデバイス・モジュール・アプリケーションの種類が増え、以下のようなものが生まれています。
- スマート家電
- ウェアラブルデバイス
- スマートロック
- スマートホーム
- カーシェアリング
- スマートハイウェイ
- スマートメーター
例えばスマート家電であれば、スマート冷蔵庫というものがあります。スマート冷蔵庫とは、冷蔵庫内の食材を管理し、賞味期限の追跡・レシピ提案・買い物リストの作成などができるIoT機器のことです。冷蔵庫によっては、タッチスクリーンを通じて音楽の再生や家族のスケジュール管理も可能です。日常生活において便利さを提供するだけでなく、エネルギー効率の向上や生活の質の改善にも貢献するでしょう。
このようにIoT技術は工場だけでなく、一般の方の暮らしにも幅広く活用されていることがわかります。
IoTの詳細は以下の記事をご参考ください。
IoTとはモノのインターネットのこと!仕組み・実現できること・導入事例を解説
データを見える化!工場にIoTを導入するメリット
ここでは工場にIoTを導入するメリットを3つ解説いたします。
- 人員配置を最適化できる
- リアルタイムで情報を取得できる
- 製造時のエネルギー消費量を見える化できる
人員配置を最適化できる
工場にIoTを導入するメリットの1つに、人員配置を最適化できることが挙げられます。稼働状況・稼働時間などを正確にデータ化できるからです。
IoTを導入していない工場では、管理者が作業員1人1人の動きを完璧に把握することは困難です。作業員の作業効率などをデータ化する場合、管理者が目視かつ手動でデータ入力しなければならず、膨大な時間がかかります。仮に収集したとしても、そのデータは正確ではないかもしれません。
しかし、IoTを導入すれば上記のような課題も解決可能です。作業員の名札や帽子などに専用のセンサーを付けることで、作業中の動線・移動距離・作業時間を簡単に数値化できます。データ内容も正確であるため、大いに役立つことでしょう。
リアルタイムで情報を取得できる
IoT機器の導入やIoT技術を活用したセンサーを利用すれば、さまざまな情報をリアルタイムで取得できます。例えば以下のような情報です。
- 作業工数や時間
- 作業員の動線や業務効率
- 全体の作業進捗
- エネルギー消費量
- 不良品の発生数
- 設備の異常
- クレーム件数と内容
IoTを導入すれば、不具合や事故を事前に把握でき、迅速な交換対応や注意喚起を行えるでしょう。その結果、不慮の事故が発生する確率も大幅に抑えられます。工場設備のメンテナンス時期を予測できるので、不要な部品交換や作業工数を削減できるかもしれません。
また生産ラインを止めるなどの機会損失も減らせる可能性があります。従来の工場では不具合の予兆を把握できずに突然機器が故障したり、管理不足による欠品などで生産ラインが止まったりすることもありました。しかし、IoT技術を使えばそのようなトラブルの解決策になり得ます。
工場での作業進捗や製造ラインでの生産進捗状況などもすぐに確認できるため、進捗遅れの原因も可視化が可能です。温度・湿度・振動など物理的な環境を監視するセンサーを使用すれば、作業進捗の推定もできます。作業環境の状態や機器の稼働状況を追跡するため、正確な推測値をはじき出せます。
製造時のエネルギー消費量を見える化できる
製造時のエネルギー消費量を見える化できるのも、メリットの1つと言えます。収集したデータに基づいて、製造プロセスを調整し、無駄なエネルギー消費を削減できます。
例えば、機器に専用センサーなどを取り付けるだけで、24時間管理することが可能です。システムによっては、不要なときに機械を自動的にオフにする機能があります。無駄な費用をカットでき、利益率向上にもつながります。どの作業工程でどれくらいのエネルギーを消費するのか・消費したエネルギーの費用はいくらかを、常に把握することができるので、作業工程の見直しや最適化もできるでしょう。
浮いた予算を他の工程・業務・設備に投入することで製品の品質を向上させることも可能です。高度化・カスタマイズ化もできるかもしれません。IoT導入によるエネルギー消費量の見える化は、さまざまな面で役立ちます。
工場にIoTシステムを導入させる際の流れ
ここでは工場にIoTシステムを導入させる際の流れについて、6つの過程に分けて解説いたします。
- 目的を明確にする
- 取得するデータを決める
- システムを仮構築する
- 本システムを構築する
- データを取得・分析する
- 機器や設備に分析結果を反映させる
目的を明確にする
まずは導入目的を明確にしましょう。導入目的を明確にすることで、資金・時間・人員などの限られたリソースを、重要項目に集中させられます。また目標に必要なIoT技術もわかりやすくなるでしょう。
目的を明確にする際は、以下の点をはっきりさせてください。
- IoT導入によってどのような問題を解決したいのか
- IoT導入によってどのような成果を期待しているのか
- IoT導入によってどのようなビジネスモデルを実現したいのか
- IoT導入によってどのような競争優位性を獲得したいのか
- IoT導入によってどのような社会貢献を実現したいのか
1人ではわからない場合は、経営陣や現場責任者に相談するのが良いでしょう。
取得するデータを決める
IoTの導入目的が明確になったら、取得するデータを決めましょう。目的を達成するためには、関連する特定のデータが必要です。取得するデータが事業目的や特定の問題解決に直結していることで、より効果的な分析と施策が可能になります。
そもそもデータと一言で言っても、以下のように多くの種類があります。
データの種類 | 具体例 |
設備データ | 稼働状況・温度・湿度・振動・電力消費量など |
製品データ | 製造日時・ロット番号・検査結果・出荷履歴など |
環境データ | 温度・湿度・気圧・風速・騒音など |
作業データ | 作業時間・作業内容・作業者の動きなど |
顧客データ | 顧客属性・購買履歴・行動データなど |
IoTの導入目的が明らかであれば、どのデータを重点的に収集すべきかがわかるでしょう。しかし工場によっては、数百ものデータ項目があるかもしれません。もしわからないようであれば、事業者や関係者に相談してみてください。優先順位がわかるでしょう。
システムを仮構築する
取得するデータが決まったら、IoTシステムを仮構築してください。システムの仮構築をせずに本システムを導入してしまうと、失敗するリスクが高まるので注意が必要です。
仮構築したシステムを導入する際は、事業者・工場の管理者・作業員と綿密に打ち合わせをしてください。特に以下を確認する必要があります。
- 測定したいデータが正しく測定できているか
- 使い勝手が悪いところはあるか
- 作業を標準化し全員が利用できそうか
- 地域・工場によって変更点などありそうか
- 不明点・疑問点はないか
上記を全員で確認し、認識をすり合わせながらシステムを仮構築しましょう。
本システムを構築する
仮構築されたシステムを使用してみて問題がなければ、本システムを構築してください。本システムの構築が完了したら、以下を確認するようにしましょう。
- 仮構築システム利用時の課題が解決しているか
- 測定したいデータが正しく測定できているか
- 新たに測定したいデータはあるか
- 作業員が問題なく利用できているか
本システムを構築したからといって終わりではありません。新たなシステムの構築や保全をしなくてはならないからです。特に、狙い通りにデータを測定できているかは必ず確認するようにしてください。もしデータを上手く収集できていないなら、以下を確認しましょう。
- IoT機器が正しく作動しているか
- 作業員が適切に管理・対応できているか
- システムが更新されているか
上記に問題がなければ、設置場所や設置機器の変更が必要かもしれません。事業者と相談しながら、繰り返し調整していきましょう。作業員のリテラシーや技術力に合わせて、構築された本システムを正しく活用できているか確認してください。
データを取得・分析する
IoTサービスの導入が完了したら、データを収集し分析しましょう。データの収集や蓄積が、生産性向上や今後の課題解決につながります。
ただし収集したデータの正確性を確保するために、ノイズの除去など、前処理を適切に実施する必要があります。データの品質が分析の精度を大きく左右するからです。
ノイズの除去であれば、移動平均※という手法がおすすめです。
※データセット内の連続する一定数のデータポイントの平均値を計算することにより、データを平滑化する方法のことです。簡単に言いますと、時系列データを平滑化する手法です。
短期的なランダム変動を減少させ、長期的な傾向を明らかにするのに役立ちます。
このような方法を実施することで、データの品質を向上させ、分析結果の信頼性を高められます。特定のデータセットや分析の目的に応じて、カスタマイズしてください。
機器や設備に分析結果を反映させる
取得したデータの分析が完了したら、分析結果を機器や設備に反映させましょう。IoT技術は、導入後も日々の検証と改善が必要です。IoTの導入により、新たに見えた課題や改善点を解決する必要があります。以下の点に注意しながら、検証と改善を繰り返すようにしましょう。
- 解決していない課題はあるか
- 現在の進捗や収集データで目標達成ができそうか
- 作業員のリテラシーや技術は向上しているか
目的を達成するために必要なデータが正しく収集できているか、都度確認することが重要です。また、作業員のリテラシーや管理技術の向上によって、収集できるデータが増えることもあります。もし作業者が適応できていないときは、研修や勉強会の開催・日々の振り返りなどを通してリテラシーおよび技術の向上を図ってください。状況に合わせて、定期的に検証および改善をしていきましょう。
スマート工場にする際の課題を解説
IoTを導入し、スマート工場にする際の課題は2点あります。
- セキュリティ対策
- 人材の確保
セキュリティ対策
スマート工場にする際は、必ず万全のセキュリティ対策を行う必要があります。IoTはインターネットを介する技術のため、常にサイバー攻撃などのリスクがあるからです。
そもそもスマート工場では、データをクラウド管理することが多いです。これは、インターネットに接続する機会が多いことを意味します。そのため以下のようなトラブルに巻き込まれるかもしれません。
2016年には、Mirai(ミライ)と呼ばれるウイルスに感染したIoT機器が、ある米国企業のDNSサーバへの大規模なDDoS攻撃に悪用され、その影響で数多くのサイトが数時間にわたって断続的にアクセスできなくなってしまいました。Miraiは亜種が確認されており、現在も感染活動を続けています。
引用元:警視庁|ボットネット対策(2024年2月1日)
DDoS攻撃とは、複数のコンピューターから大量のデータを送り込む方法のことです。処理が追い付かなくなったサイトやサーバーは、正常に動作しなくなるかもしれません。場合によっては、機密情報や個人情報の流出などに発展するおそれもあります。従来の工場では想定されていなかったさまざまな脅威があるので、注意しなければなりません。
対策としては、以下が挙げられます。
- ネットワークの分割
- ゲートウェイの導入
- ファイアウォール・侵入検知システム・侵入防止システムの導入
- アクセス制限の実施
- 通信状況可視化・監視
- 脆弱性情報収集・診断・対策
- ログ取得
IoTを導入する際は、必ずセキュリティ対策を万全にしましょう。
人材の確保
自社でIoT導入を進めたい場合は、人材の確保も重要になってきます。IoTを活用するには、専門知識が必要だからです。
そもそもIoTシステムの構築や運用には、以下のような技術・能力が必要です。
- 組み込み技術
- ハードウェアとソフトウェアの知識
- ネットワークやセキュリティ知識
自社で人材を確保する場合、主にIoTエンジニアを採用することになります。IoTエンジニアとは、IoTシステムを企画・設計・開発・運用するITエンジニアのことです。IoTを運用するのであれば、必須の人材と言えます。
工場にIoTを導入・活用した事例を解説
ここでは、実際に工場でIoTを導入・活用した事例を2つ解説いたします。
- 工場におけるIoT導入事例その1
- 工場におけるIoT導入事例その2
工場におけるIoT導入事例その1
当社の事例(厳密には実証実験)の中に、工場へ導入したケースがあります。
物流における在庫位置の特定 指向性機能を高めたBLE受信機により、発信機であるBLE(*2)ビーコン(FCS1301、timbe)を付帯した物流在庫が工場内のどの位置にあるか特定し、データ収集をおこないます。
(*2) BLE(Bluetooth Low Energy)は低消費電力で近距離無線通信ができるBluetooth規格です。工場内のネットワーク構築 工場のようなLAN構築が難しい環境におけるビーコンの発信データの収集は、LPWA技術を用いることで解決します。名古屋工業大学大塚研究室が開発したLPWA通信モジュール(LoRaPAN)は通信キャリアを必要としないプライベートネットワーク形態のため、LPWA通信が可能な受信機を使用することで、広範囲ネットワークをシンプルに構築できます。
引用元:株式会社フォーカスシステムズ|BLEビーコンとLPWA技術による広域位置測位システムでの 工場内物流の効率化に向けた実証実験を開始(2024年3月7日時点)
この事例では、作業員の高齢化・人手不足・品質管理の向上が主な課題として挙げられました。これらの問題に対処するために、IoT化とデジタル化に取り組んでいます。
使用された位置情報ビーコンは『FCS1301』と『timbe』です。これらは、広い通信範囲を持ち、物流在庫が工場内のどの位置にあるか特定およびデータ収集を行います。データ損失のリスクを減らし、位置情報システムの精度向上を期待できます。
工場におけるIoT導入事例その2
工場にIoTを導入した事例は他にもあります。
<③データの分析・学習>
製造ラインの品質管理プログラム
コンピュータに、所定の製造工程後の製品を所定の検査項目それぞれについて検査した結果を表す検査結果データを、検査装置からネットワークを介して受信し、データベースに蓄積する機能、当該製品を製造した際の製造条件データを、製造装置からネットワークを介して受信し、前記検査結果データに関連付けて前記データベースに蓄積する機能、前記データベースに蓄積された前記検査結果データの検査結果と前記製造条件データのうち不適合の原因となった製造条件との関係をディープラーニングによりニューラルネットワークに学習させる機能、前記データベースに蓄積された検査結果データを監視する機能、前記監視により不適合の検査結果を発見した場合、前記学習済みニューラルネットワークを利用して、前記不適合の原因となった製造条件を推定する機能、を実現させるための、製造ラインの品質管理プログラム。
引用元:特許庁|IoT関連技術等に関する事例の充実化について|32ページ目(2024年3月7日時点)
これは製造工場の事例なのですが、データ収集・学習機能・分析機能を統合することで、製造における品質問題を迅速に特定できるようになります。このようなシステムを導入することで、製造プロセスの最適化と品質の向上を同時に実現できるかもしれません。これにより、製造業の品質管理プロセスに革新的な変化が起こることが期待されます。
まとめ
今回は、工場にIoTを導入するメリット・導入手順・IoT導入の事例などを解説いたしました。 IoTは、生産性の向上・売上の増加・人手不足の解消など、あらゆる点において役立つシステムです。今やIoTの導入は、製造業にとって必要不可欠と言えるでしょう。
しかしスマート工場を目指し、IoTを導入する際には、気を付けるべき点があることもわかりました。考えなしに導入を進めてしまうのは、危険かもしれません。もしIoTの導入を検討されている場合は、当社にご相談ください。